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理系頭巾の知見

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君は奇書『怪談人間時計』を知っているか? 10万の値がついたカルト的珍本

現代に遺る「奇書」

皆さんこんにちは、頭巾です。

新しいウキウキ気分で始まる新年度も4月が終われば一気に落ち着き5月病、今は多くの人に気分の浮き沈みがある時期ですね。

今回の記事ではそんな脆い心に寄り添い、更なる泥沼へ浸ることのできる本を紹介します。

その本の名前は『怪談人間時計』 (QJマンガ選書)です。

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帯に「マニアの間では10万円以上の値段で取り引きされていた奇書」とある通り、この本が世の中にある膨大な数の本の中でも群を抜いて「奇妙」な本であることは間違いありません。

しかし一体どの点が「奇妙」なのでしょうか。

作者(徳南晴一郎)が拒んだ『怪談人間時計』の再出版

『怪談人間時計』が初めて世に放たれたのは1962年のことです。

発表当時の反響がどの程度のものだったのかは分かりませんが、1979年450部のみ復刻された同作には10万円ものプレミアがつき、一部のコアな層に支持される作品となりました。

1996年太田出版から現在流通している『怪談人間時計』の単行本が発売されるまでの17年間、同作は“知る人ぞ知る"カルト的作品だったのです。

今でも決して一般的に知られている作品ではありませんが、僕が諏訪哲史著『偏愛蔵書室』で同作を知ったように、昔と比べると多くの人に知られている様です。

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そんな『怪談人間時計』ですが、作者の徳南晴一郎にとっては1996年の太田出版からの再出版は本意によるものではなかったそうです。

同作の巻末に収録されている竹熊健太郎による批評「『人間時計』を出版する意味とは何か?」には次のような記述があります。

一九九六年十一月現在、本書が出版されることは、作者の徳南晴一郎氏にとっては本意ではないらしい。
本書を出版するため何度も徳南宅を訪れた編集者に向かって、氏はかたくなに出版を辞退していたが、とうとう最後には「出版するなら勝手にしろ。ただし印税の受け取りはお断りする」趣旨の手紙を書いてきたのだという。

一般的に作品が多くの人に認知されることは作者の望むことである筈です。

にも関わらず印税の受取を拒否するまでに『怪談人間時計』は作者の徳南晴一郎にとっての負の遺産なのです。

世に数多ある出版物の中で読者に嫌われる本は山ほどありますが、逆に“作者に嫌われ、読者に好かれる”本はかなり珍しいのではないでしょうか。

作者にとっての"負の遺産"でありながら、『怪談人間時計』という作品には読者が求めて止まない“類稀なる表現・才能”が内包されています。

そんな需要と供給が逆転した作品だからこそ、同作はカルト的人気を博し「奇書」となったとも言えます。

『怪談人間時計』の内容

『怪談人間時計』のあらすじは他サイトや多くの本で紹介されているので、ここでは簡単なものに留めておきます。

話は主人公「声タダシ」が下校中に自転車と衝突したことから始まります。

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(この一コマからだけでも同作の“異質さ”が滲み出ている様に見えます。)

衝突の際に駆け寄って来たヤジウマが“恐ろしく無粋な「動物」”に思われた彼はその日以降学校に行かなくなり、家庭教師を雇うようになります。

一人目の家庭教師は一見普通の大学生で、物語上からも比較的早く退場します。

しかし二人目の家庭教師が発端となり、「声タダシ」を取り巻く人々や環境が大きく変化していくことになるのです。

また登場人物だけでなく物語序盤から強調される「時計」の存在に起こる変化も物語に於いて重要な意味を持ちます。

88ページからなる漫画作品であり、場面場面を考察し意味を見出すことが非常に困難な表現がなされています。

難解な作品と腰を据えてじっくり向き合える方には非常におすすめな作品とも言えますね。

『怪談人間時計』最大の魅力

同作最大の魅力は何と言ってもその「描写」に尽きます。

展開される物語も興味深いものですが、個人的には「描写」が物語を奥深いものへ昇華させている様に感じられるのです。

上述した諏訪哲史著「偏愛蔵書室」でも紹介されている『怪談人間時計』のあるページをご紹介します。

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このページを「偏愛蔵書室」で初めて見た時の驚きは今でも覚えています。

人物の紙、表情、台詞…背景に躍動する「動物」(ヤジウマ)…。

コマ割りを除いて隅から隅までどこを見ても漫画作品的な「一般性」がありません。

このページが『怪談人間時計』において最も特異なページなのかというとそんなことはありません。

全編を通して上のページと同等、またはそれ以上に歪んだ表現が連発します。

似たような画風で統一された昨今の漫画に飽き飽きしている方は、『怪談人間時計』で漫画に求める"何か"が見つかるかもしれません。

おわりに

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購入履歴を確認した所、僕がAmazonで『怪談人間時計』を購入した日から既に1年半程経過していました。

Amazonの在庫は2012年のある時期しかなかったようで、今『怪談人間時計』を購入する手段は「古本」か「電子書籍」になります。

個人的にかなり以外だった点は同作の電子書籍版が販売されていたことです。

これは作者の徳南晴一郎氏が2009年12月24日に亡くなっていることが影響しているんでしょうね。

本記事では触れませんでしたが作者の徳南晴一郎氏自身も非常に興味深い人物です。

同氏を詳しく知る為の自伝『孤客: 哭壁者の自伝』を読まずに『怪談人間時計』に触れることは記事の質を考えるとあまり良いことではなかったかもしれませんが、書き上げた今となっては些細なことです。

以上、『奇書『怪談人間時計』を知っていますか? 〜Amazonで買える珍本〜』でした。